頸椎症性腰痛 of 脊髄外科ジャーナル



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頸椎症性腰痛について

頸椎症性腰痛とは,このホームページの作者による新造語ですが,一言で言えば,頸椎の病気で発生する腰痛を意味しています.

腰痛と言えば腰部脊柱管狭窄症などの腰椎の異常で発生するとするのが常識ですが,頸椎の病気で腰痛が発生するのでしょうか?

 頸椎の病気で腰痛が発生するかもしれないと気がついたのは,変形性頸椎症の患者さんに対して頸椎椎弓形成術により頸髄の減圧を行うと,腰痛までもが治ってしまうことが多いという事実に直面してからです.その後,変形性頸椎症に対して頸椎椎弓形成術を行う患者さんに対して腰痛の変化を調査しました.そうすると,術前には約3割の患者さんが比較的強い腰痛を感じておられましたが,頸椎椎弓軽施術の術後には,ほとんどの全ての患者さんにおいて腰痛が消失するか著明に減弱していました.このことから頸椎に異常がある人が腰痛を訴える場合には,腰痛の原因は頸椎に起因していることが多いということが結論できると思います.
 痛みの程度を調査する場合には,ビジュアルアナログスケール(VAS)という方法により痛みの程度を数値化し,VASスコアとして1から10点までの点数として表現します.腰椎疾患のない27人の患者さんにおける頸椎椎弓形成術前後の腰痛の変化をグラフで表したものが下図です.頸椎椎弓形成術により著明に腰痛が改善しているのが見て取れます.
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腰部脊柱管狭窄症などの腰椎の異常により腰痛を患っている人が変形性頸椎症などの頸椎の異常を同時に持っている場合もあると思います.その場合,先に変形性頸椎症に対して頸椎椎弓形成術を行うと腰痛はどうなりますか?

 たとえ腰部脊柱管狭窄症を合併していても,頸椎の手術により腰痛が改善するという事実に直面したときには,正直言って,驚きでした.調べてみると,ほとんどの患者さんで腰痛は改善します.しかしながら,腰部脊柱管狭窄症を合併している場合には,半数以上の患者さんにおいて治った腰痛が再発してしまい,腰部脊柱管狭窄症に対する手術が必要になります.下図に頸椎椎弓形成術の術前後とその後の腰痛の変化をグラフで示してあります.
VASの変化.016.jpg

頸椎の手術で腰痛が改善するとした報告は今まで皆無でしょうか?

 いえ,現在まで,頸椎の病気により腰痛が発生するという論文は下記の2編あります.いずれも,変形性頸椎症に対して頸椎椎弓形成術を施行した後に腰痛が改善したと報告しています.

どのようなメカニズムで腰痛が発生するのでしょうか?

 頸部において脊髄が圧迫されることにより腰痛が発生するというメカニズムについては全く分かっていません.それどころか,脊髄が圧迫されることにより疼痛が発生することを研究した論文はほとんどありません.しかしながら,脊髄の内部に発生する髄内腫瘍により疼痛が発生することは良く知られた事実であり,脊髄の圧迫により疼痛が発生するのは事実のように思われます.

Kawakita E, Kasai Y, Uchida A. Low back pain and cervical spondylotic myelopathy. Journal of Orthopaedic Surgery 17: 187-189, 2009
Langfitt TW, Elliot FA: Pain in the back and legs caused by cervical spinal cord compression. JAMA 200:382-385, 1967